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提言

コロナ禍における薬学部の取り組みと今後

芝共立ITC所長:大江 知之


新型コロナウイルスのためにキャンパスが閉鎖して以来、人が少なくなったキャンパス内において次から次へ様々な問題が発生しており、教職員が悪戦苦闘している毎日が続いている。やはり、この異常事態について何かしら記録しておく必要があると思い、今回は薬学部の現状について特にITの側面から記すことにした。

まずは、3月にキャンパス閉鎖が決定される中、春学期の授業は基本的にオンラインで行うという方針が出されたときの教員の動揺は凄まじかった。遠隔講義などと言われても多くの教員にとって何をどうするのか皆目見当がつかなかったし、準備するための猶予は1ヶ月しかない。幸いなことに「基本的にオンデマンド配信」という通達が出たことで方向性は絞られたが、薬学部の場合リアルタイム配信にせざるを得ない状況も多々あり、そちらの方策も考えておかなければならない。しかも、講義や実習についての心配の他にも、研究室での学生の対処、研究の進捗についても憂慮すべき事態となっている。途方に暮れていた状態ではあったが、Web会議システムも含め様々なITツールが、案外容易に受け入れられ、瞬く間に教職員そして学生に浸透していった。もちろんこれは1キャンパス1学部、しかも小さい学部というのが功を奏したところもあるが、ITCサポートも含め、多くの関係者が危機意識を持ってこの難局を乗り切ろうと知恵を絞ってくれたおかげだと思う。

こうしたオンラインでの講義が続く中、薬学部はその特殊性から、6月よりいち早くキャンパス内での講義・演習・実習を一部開始した。これが2つ目の試練である。講義室・実習室の人数制限を設けることから始まったわけであるが、ITCとしてはまず最初にPC室をどうするかという問題に直面した。芝キャンパスのPC室は極端にせまく、感染防止対策をしてもこの部屋に学生を収容し授業環境を作るのはほぼ不可能に思われたからだ。幸いなことに、関係各所の調整により、換気能力が極めて高く、芝キャンパスでは最大規模の地下実習室を使うことができることになり、そこにPCを移動し仮設PC室を作ることが決められた。これは多分その後のコロナ禍の薬学部での講義・演習をスムーズに行う上で重要な判断だったと思う。現在でもこの部屋に学生を集めて何かをする機会は多く、CBTなどのPCを使った共用試験でも使われ、秋学期以降も学生の自習室としての使用も想定されているからだ。何にしてもキャンパス内において換気に優れ広いスペースを確保することは、withコロナの時代には最重要課題ということを痛感した。

一方、私自身芝共立ITC 所長という立場もあったので、春学期はオンライン講義関係で様々な試みをしてみた。動画編集ソフトを使って講義動画を編集して分かりやすくする取り組みや、学生実習を全て遠隔的に行う取り組み、時間を決めてのオンライン試験などである。例えば90分の講義を1つ準備するのに丸一日かかったりしてそれなりに骨の折れる作業ではあったが、学生から様々な意見を収集してみたところ、評判はまずまずだったようである。オンデマンド配信動画は、何度も見返せて好きな時間に自分のペースで勉強でき試験前も見直せるというのが最大のメリットである。私は学生相談室のカウンセラーでもあるので学生の意見を聞く機会も多いのだが、最近の大学生は、中学高校時代に受験勉強などでネット動画を利用することで相当な学習効果があることを実感しているらしい。そうした時代を生きてきた彼らは動画での勉強にとても慣れ親しんでいるのである。そういう講義法に慣れておらず、はらはらして見ていたのは教員だけだったのかもしれない。ただし、もちろん友人や先輩と情報交換できないという不満もあるようだ。特に同級生とSNSで繋がる間もなく大学生活が始まってしまった1年生はかなり孤立してしまった様子も見受けられた。我々も、1年生に対してだけは、キャンパスに全然来られないのも可愛そうなので少人数で対面での実習を行ったりしたのだが、皆例年以上に楽しそうに実習に取り組んでいた様子を見るにつけ、やはり対面でしかできないことも多いことを改めて実感した。総じて考えれば、おそらく今後はこのオンラインと対面授業を両立することが最も学習効果の高い方法になっていくのだろう。

最近良く言われていることだが、今回の新型コロナ感染症により、多くの業務がスリム化されIT化された。こんなことで、10年以上かかるかもしれないと言われていたマインドセットの変革が達成されるなんてことは誰も考えていなかったことだと思うが、現実に起きてしまった。大学においても例外ではなく、長年推奨されていた講義や会議のオンライン化が一気に進み、大学における教員の教育方法や学生の学習方法ががらっと変わってしまった。教育機関の取り組みとしてこれで本当に正しいかどうかは現時点で判断することはできないが、今はこれしか選択肢がなく前に進んでいくしかないのだと思う。将来医療従事者や新薬創製に貢献する人材を育成することが使命である薬学部においては、感染症に対してある程度のリスクは受け入れなければならない一方で、科学的な視点から独自のリスク軽減対策を実行することが求められている。その中で、ITCの支援が期待されていることは間違いない。

最終更新日: 2020年9月3日

内容はここまでです。