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提言

キャンパスとデータの分離

湘南藤沢ITC所長:中澤 仁


今年度SFCでは、一部を除いて特別教室(いわゆるコンピュータ教室)を廃止し、学生のBYOD(Bring Your Own Device)化を進めています。新入生には、新学期の第1週目から自分の好きなパソコンを持参して授業を履修できるよう、準備をお願いしていました。これに備えるために、情報系の授業では内容の精査やテキストの改訂など、担当講師の皆様にもたくさんのお願いをしてきました。当初は、プログラミングの授業を学生の様々なパソコン、つまりはMacやWindows、Linuxなど、を使って実施できるのか?という心配もありましたが、予想以上にうまく進んでいるようです。キャンパス内のコンピュータを使わずに授業を行える体制が、SFCでは昔からある程度は実現されていましたが、現在のコロナ禍にギリギリ間に合うタイミングで、これを新入生にまで拡大できました。2020年度春学期、SFCの授業はほぼ全てライブ・オンラインで開講されていますが、多くの学生や教員が特段の問題なくこれに取り組んでいるようです。ただこのことから、次の二つの課題が見えてきました。

一つは、学生や教員がつながるネットワークが、意図せずキャンパスから切り離されてしまったことです。これまでITCはキャンパスのネットワークを構築、運営してきました。ところが現在のように授業がキャンパス外で実施される状況では、学生も教員も自宅等のネットワークに接続し、ITCはこれを制御できません。接続するネットワークの不具合によって、授業を円滑に実施または受講できなくなる事象も発生しています。こうした事態に対処、あるいはそれを事前に防ぐために、今後はキャンパス外で学生や教員が接続するネットワークに関しても、ITCは検討を進めていく必要がありそうです。もう一つは、学生や教員が研究・教育に活用するストレージや計算能力(以降リソースという)を、意図してキャンパスから切り離すことです。SFCでは学生や教員のファイルシステムを、NFSを介して端末に提供しています。しかし現在のようにユーザがキャンパス外に存在する状況では、各個人がキャンパス外で使用するパソコンから、上記のファイルシステムにアクセスできません。SSHを介したファイルの転送くらいは可能ですが、シームレスではありません。そこで、研究・教育に活用するリソースはなるべくキャンパス外に出し、柔軟にアクセス可能とすることが望まれます。キャンパス内に存在するリソースに対してキャンパス外からアクセス可能とする方法もありますが、管理コストが跳ね上がってしまいます。また、上記のようなリソースをキャンパスが自前で持つことはそもそも、供給可能リソースの上限値を定めることに他なりません。

リソースへの需要を時空間的に見ると、このことは次のように考察できます。まず空間的には、ユーザがキャンパス内外のいたるところに存在する、というのが通常の状態になるでしょう。さらに、国際共同研究の拡大とともに、研究データを地球規模で共有する必要性が高まっています。次に時間的には、特にAIに関する研究・教育の拡大に伴って、計算リソースへの需要はこれまでよりも激しく変化するようになるでしょう。AIを学習させるために大量の計算リソースが短期間だけ必要、という事象がすでに起きています。今後のキャンパスネットワークは、このような時空間的な需要変動に対応しなくてはなりません。SFCが開設された30年前と違って現在は、様々なリソースが仮想的に購入可能となりました。これを可能としたいわゆる「クラウドシステム」は、正しく導入すれば、研究・教育に安全に用いることができます。また、上述した需要変動にも柔軟に対応可能です。更に嬉しいことに、キャンパスの停電の影響を受けません。したがってこれからのITCでは、研究・教育で用いるデータを、キャンパスから分離可能とし、安全に管理し、柔軟に活用できる仕組みを整えていくことが重要で、そのためには「キャンパスネットワーク」のあり方を根本から見直していく必要がありそうです。

最終更新日: 2020年10月5日

内容はここまでです。