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提言

自動運転への第一歩

理工学ITC 所長:松尾 亜紀子


さて、最近はやりのネタを考えてみた。私は機械工学科の教員であることから、クルマのネタは大好きである。本来クルマとは液体燃料(ガソリンや軽油)の燃焼によって放出されたエネルギーを動力に車輪を回転させて走行するものである。つまり、「エンジン」が心臓であり、心しびれる装置である。近年では燃料電池自動車や電気自動車の商品化によって、残念ながら「エンジン」の意味が変わってきた。ここではまだインフォメーションテクノロジーとの関わりは少ないが、ここ最近世間を騒がせている「自動運転」となるとインフォメーションテクノロジーの重要性が増してくる。クルマは運転手の意思によって勝手に走り回るものであるから制御しようとしても難しいものであると考えられていたが、近年のGPSの普及によってクルマは地図上のどこに位置しているのか判断でき、クルマに搭載された様々な精密機器によって周りのモノを認識した上で位置関係を把握できるようになったのである。

例えば、クルマに搭載されたカメラが撮影した画像はビッグデータとしてモノの認識について学習し、クルマが周囲のモノを判断できるようになったのである。つまりAIの力である。ちなみに「自動運転」には「レベル」というものが存在することをご存じであろうか。「レベル0」は通常の運転手の判断による走行である。「レベル1〜レベル2」はある程度の自動化はあるが運転手が運転の主体であり、クルマ走行時の責任は運転手である。つまり、衝突防止のための自動ブレーキやクルマの回避行動などであり、運転手はクルマのハンドルを握っていなくてはならない。しかし「レベル3〜」はクルマが主体となって運転を行うのである。つまり「手放し運転」である。どこかの国の首相は「オリンピックまでにレベル3を」と述べてしまって、どこかの国の大自動車会社は大変な思いをしていることと推察される。

ここで最新のお話を。2017年7月11日、なんとアウディが自動運転レベル3の自動車を他社に先駆けて商品化することを発表したのである。アウディのラインナップの中では最高峰のA8。中央分離帯のある高速道路に限り時速60km以下で自動運転レベル3での走行ができるのである。これは、世界中が注目する大発表であった。だが、ドイツのアウトバーンを時速60km以下で走行するドイツの高級車があるのだろうか。残念ながらよほどの事態が無い限りそのようなことは起きないとは思われるが、他社に先駆けて商品化をしたことが素晴らしいのである。ちなみに「レベル3」は中途半端なレベルであり、最も難しいレベルである。「レベル5」になると完全な自動運転となり全てクルマにお任せするから安全であるが、「レベル3」は緊急時にヒトが手を出すことになっているところが難しいのである。自動運転の仕様や法整備など行く末はまだ見えないところも多いが、少なくとも人間の判断だけには頼らない運転となることは間違いなさそうである。2020年には第5世代移動通信システムもサービス提供が予定されている。クルマの世界でもIOTとしての更なる発展が期待されるところである。

クルマの運転が大好きな私としては、今のうちに沢山運転しておかないといけない。将来はクルマがつまらないものとなりそうで、自動運転の将来よりもそのことが心配だ。

最終更新日: 2017年9月15日

内容はここまでです。