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特集

Canvas LMSの導入・展開について

ITC本部:染谷 洋輔・今堀 隆三郎・赤堀 光希・武内 孝治
  1. はじめに
    慶應義塾では授業運営を支えるLMS(Learning Management System)として過去 15 年以上に渡り独自の授業支援システムを独自開発・運用してきた。しかしながら近年の教育 IT 基盤におけるエコシステム形成の潮流、また安定的かつ高品質なクラウドサービスの普及にあたり、塾内のガラパゴス化するシステムの刷新、ならびに持続可能なシステム基盤の見直しの必要性が顕著なものとなり、2020年 6 月より国内 Google Cloud Platform(GCP)環境下における Canvas LMS(オープンソース版)の導入を段階的に実施し、2021 年度には全学運用を開始した。
  2. 旧来のLMSにおける課題
    旧来運用してきたLMSである授業支援システムは、メンテナンス・改修負荷の増大やグローバルトレンドからの逸脱・孤立がかねてより懸念されていた。さらに2020年度4月以降、COVID-19の影響によるオンライン授業の急速な利用拡大を受け、オンプレミスで運用していた授業支援システムではシステム負荷に耐えることが難しい状態となっていた。
  3. 新LMSの選定
    上述の課題認識のもと新たなLMSの選定を行った結果、下記のような点を評価しCanvas LMSの採択に至った。 1) 近年北米を中心としたグローバルでの導入・利用シェアが高く、国際標準と見做されているIMS Global Learning Consortium[1]で策定されている教育ツール連携のための規格と親和性が高い[2]。 2) システム管理者, 講師(共同担当者含む), 学生に対して十分な機能群が実現されており、更に新しい時代のニーズに合わせた機能拡張といった長期的な発展・強化が見込まれる。 3) データ共有や遠隔授業、オンデマンド配信等を支える外部教育ツールとの組み合わせにより充実した教育プラットフォーム及びエコシステムの形成が可能である。 4) 導入・サポートについて確実に実施できる体制を学内・学外を通じて構築できる。
  4. 構築・導入
    > COVID-19が猛威を振るう中、旧来の授業支援システムで全面的なオンライン授業に対応し続けることは困難であり、早急なシステム移行が求められた。新LMS の構築・運用環境となるクラウド基盤について基本方針を固めたのが2020年7月であり、それから約2ヶ月という極めて短期間でパイロット運用に備えることとなった。この約2か月の間で、システム基盤実装と並行して3つの活動を展開した。 1) オンライン授業の開始に必須となる、学事システムとLMS間のデータ連携アプリケーションの設計・実装(コース作成・ユーザ登録・履修登録などの自動化) 2) LMSの機能性を拡張する様々な学修支援ツールの選定およびCanvas LMS への組み込み(Web会議システム, 提出課題管理, レポート剽窃チェックシステム, ファイル共有システム等) 3) 操作マニュアル・セミナー動画の整備
    図1. Canvas LMS 構築スケジュール
  5. 展開 2020年9月より一部の授業で新LMSの利用を開始し、その初日から全学の1/4弱にあたる約7,000名の学生が一斉に利用を開始した。実際に利用を始めた早期ユーザから得られるフィードバックを元にCanvas LMSの機能を強化・拡張する独自のLTI 対応アプリケーションを開発、また全キャンパスを巡る説明会(2021年4月までに50回以上実施)など本格展開への準備を経て、2021年4月には3万名近くのユーザが利用する全面稼働が実現した。
  6. 課題と今後の展望 Canvas LMSを中核として連携させた教育ツール群の展開・利用により、授業形態は高度にデジタル化・拡充されつつある。対面授業、授業配信による同期型のオンライン授業、授業動画のオンデマンド配信による非同期型のオンライン授業のいずれでも受講が可能となるハイブリッド授業(ハイフレックス授業)のスタイルが実際に運用できるようになった。今後この新しい教育プラットフォームの学内における更なる活用と展望として、以下のような目標を立てている。 1) 通常の履修科目以外の利用ユースケースの拡大(職員教育や各種個別講座の開設) 2) 連携するツール群の拡充 3) 学修データの蓄積・利活用によるシステム利用者への新たなるサービス提供 特に3)においては、LMSや動画配信システムなど, 現状ではシステム毎に分散している学修ログを一元化されたデータベースに集約し、学生個人に合わせた学修分析ができる環境の実現を目指す。学修ログは、IMS Caliper等の標準仕様に形式統一し、LRS(Learning Record Store)を構築・運用することによって一元管理を可能にする。また、蓄積された標準化形式の学修データを基に、学生が個別に履修している授業を横断した俯瞰的な情報を提供できる「学修ポータル」を実装し、LMSでの課題の実施状況の可視化、LMSでの学修成果物のショーケース化、LRS蓄積データや授業アンケート, 成績データなどを基にした分析結果による学修計画機能等を提供し、学修者本人を起点とした教育支援環境の実現を目指す。
  7. 参考文献 [1] IMS GLC, https://www.imsglobal.org, 2022年8月15日 [2] 常盤 祐司, 最新のIMS標準を実装するCanvasによる授業改善の可能性 : 法政大学における事例研究, 法政大学情報メディア教育研究センター研究報告, 33巻, 30-37ページ, 2019年

最終更新日: 2022年9月22日

内容はここまでです。