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特集

職域接種

ITC本部:杉本 啓祐,赤堀 光希

概況(総論)

2020年、新型コロナウィルス(COVID-19)のパンデミックにより、世界中の人々が混乱とその脅威にさらされ、社会活動において著しい制限と断絶を余儀なくされていた。
本稿では、全塾一丸となった取組により、全国の教育機関の中でも先駆け的な事業となり、塾内のワクチン接種者拡大および他大学の支援にも繋がった「慶應義塾 新型コロナウイルス職域接種プログラム」における対応をシステム開発・運営の側面から振返り、これを記録するものである。

コロナ禍の情勢と職域接種

新型コロナウイルスの感染拡大から1年以上が経過した2021年5月、日本政府による新型コロナウイルス職域接種プログラムが発表された。これは地方自治体によるワクチン接種の負担を軽減し、接種全体の加速化を図るため、賛同する企業や大学において職域単位での接種を可能とする試みである。企業や大学が職域接種を実施するには、医師・看護師等の医療職、会場運営のスタッフ等の人員やワクチン接種の会場となるスペース等を自ら用意する必要がある。
新型コロナウイルス職域接種プログラムの発表を受けて、慶應義塾では大幅な制限を受けてきた「キャンパスライフの奪還」に向けて、三田キャンパスにワクチン接種会場を設置することを決定した。病院・医学部・看護医療学部・薬学部・保健管理センター・各事務部門に加えて医療系学部の卒業生までもが一体となった一大プロジェクトの発足である。

システム開発と構築

2021年5月末、インフォメーションテクノロジーセンターにも、国の施策である職域接種プログラムを慶應義塾においても実施するという一報が伝えられた。システム要件の精査もさることながら、目指す運営開始は、全国的な職域接種開始日の最速設定となる2021年6月21日が示された(更には、事前予約として6月16日のシステムリリースが想定された)。
全体の事業計画や運用・人員面の調整と並行しながらも、【僅か2週間強】という期間の中で、システムスコープの調整・検討事項は山積しており、日々発生する新たなる要件や課題と向き合いながら、まさに1日、1時間、1分と寸暇を惜しんだ開発、構築、リリースが極めて集中的に超短期的日程の中で遂行された。
捉え方によっては無理難題とも言える本プロジェクトではあるが、プロジェクト開始から数週間の後に社会問題として顕在化する職域接種におけるワクチン数の供給不足(ワクチン確保の競争化)を振返ると、どの部分をシステム化するべきか、内製開発するか外部サービスを活用するか、実装方式は前述の一報が届いたその日にいち早く即断されていた点、並びに、全国最速日としての接種開始を厳守した点は、事業全体に及ぼした影響が大きかったものと振返る。

【職域接種プログラムにおける主たるシステム対応】
  • ワクチン数の緻密なコントロールおよび運営側の会場・人員計画に準じるため、内外を含めた学生・教職員:5万人を対象に、接種者側の全体統制や誘導のキーツールとして予約システム/受付システムを構築した。
  • 厚労省が掲げる各種接種管理システム(VRS:Vaccination Record System)や運用(数字届出や、個票情報の提出等)と効率的な連動を意識した業務・ツールデザイン。
  • 数千人が瞬間的にサイトアクセスする負荷に耐えうる基盤環境やサイト誘導の設計・構築。 他大学学生、慶應義塾で勤務される非正規雇用スタッフ、教職員の同居人等、学外接種対象者の予定・実績管理システム(※)との連携※学生部が他組織・教育機関との主導的統制を取り、当該管理システムを構築。
  • 情報公開においては多くの部署より随時同時メンテナンス・発信が可能な形を想定しGoogle上での共同サイトとして構築・稼働した。

核となる予約システムにおいては、各身分ごとの特殊な事情(試験日程や留学日程、各職責毎の業務)に配慮しながらも公平性や全体のバランスが取れた予約枠(接種枠)の制御が可能な形で構築がなされた。職域接種の接種回数は一定期間を空けてからの2回接種が標準となっており、本人確認と同時にワクチン接種規定(年齢、同日の重複接種、インターバル期間等)に配慮したチェックロジックも入念に考慮がなされた。
システム稼働日においては、6月21日からの接種に向けて6月16日に予約開始が計画されたが、全体的なシステム負荷が授業時間帯に影響を及ぼすことが懸念され、早朝6時のカットオーバーとなった。稼働時点でサービスのエントリ側となるWebサーバを9台構成で展開し備えていたが、開始時点での共通認証通過が5440人/分と通常の同時間帯とはかけ離れたアクセス数が記録されていた。
稼働初動でサービスが一時的に重くなる事象も垣間見えたが、その後、オンライン予約は順調に進み、多い日では2,000名を超える予約が取得された。これは会場の一日あたりの接種時間帯である4時間を考慮すると、1名あたり約7秒のペースで接種を行う試算となる。そこで、当日の受付はシステムトラブルやネットワークの負荷による影響を極小化することができるオフラインで実施することに決定し、ローカルPC上のフォームとICカードリーダーを組み合わせたシステムを構築した。受付にはスピードと正確性が要求されるため、教職員証・学生証をかざすだけで個人情報、予約情報、接種実績が表示され、受付可否がわかる仕組みとした。

システム稼働実績や接種実績

オンライン予約とオフライン受付を組み合わせたシステムは順調に稼働し、2ヶ月半にわたる新型コロナウイルス職域接種は大きな問題もなく無事に終了を迎えることができた。
慶應義塾における職域接種の実績は下表の通りである。なお、慶應義塾では、学生・教職員、キャンパスで働く委託企業等の方に加えて、他大学等の学生・教職員の方を対象としている。

【期間】

2021年6月21日(月) ~ 2021年9月3日(金)

【接種人数】

1回目の接種者 合計49,320名
2回目の接種者 合計48,706名
        合計98,026名

【接種者の内訳】
  1. 慶應義塾
      1回目接種 2回目接種
    大学学部の学生 (通学課程)22,162名21,774名
    大学学部の学生 (通信教育課程)1,882名1,857名
    大学院の学生3,180名3,153名
    役員および教職員 (講師 (非常勤) 含む)4,316名4,295名
    役員および教職員 (講師 (非常勤) 含む)の同居家族1,972名1,964名
    委託職員・関係会社社員等1,219名1,214名
  2. 他の大学 (44の国公私立大学等)
      1回目接種 2回目接種
    全学的接種 (学生および教職員) への協力 (14大学、1機関)11,186名11,106名
    海外への留学を予定する学生への支援 (28大学)1,019名1,012名
    臨地実習を予定している看護大学、学部、学科の学生および949名947名
    引率教職員への支援 (7大学)
    体育会等課外活動を行う学生への支援 (3大学)727名700名
  3. 文部科学省「留学予定者ワクチン接種支援事業」
      1回目接種 2回目接種
    留学予定者への支援708名684名


参考

慶應塾生新聞ONLINE
早期接種はなぜ実現したのか 北川常任理事に聞く、職域接種の裏舞台
https://www.jukushin.com/archives/47149

最終更新日: 2022年9月22日

内容はここまでです。