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提言

パソコンと筆箱

湘南藤沢ITC所長:中澤 仁


SFCの授業では、多数の学生がノートPCを開いて受講する風景が当たり前になっています。他キャンパスではどうでしょうか?それらの学生たちがパソコンでノートを取っているのか、他のことをしているのか、その辺は大変興味のあるところです。私が教室を歩きながら授業をすると、YouTubeを見ていたり、授業とは関係ないプログラムを書いていたりする学生が見受けられます。そういう時には、自分の授業の魅力がYouTube上の動画に負けていることを深く反省するしかありません。

このように多数の学生が自分のパソコンをキャンパスに持参している時代に、大学がコンピュータ教室を用意して、そこに完璧な環境を整えたパソコンを用意することの意味は、ほぼ無くなっています。小学生でさえ、自分で使う鉛筆や消しゴムは自分で整えて筆箱に入れて学校へ持参するのです。大学生なら、しかも慶應の大学生なら、自分で使うパソコンを自分でちゃんと設定してキャンパスへ持参するくらいのことは、できて当たり前です。筆箱にいろいろな文具を入れることは、パソコンにいろいろなソフトウエアをインストールするのと同じです。

そこでSFCでは、大半のコンピュータ教室からパソコンを撤去して、Bring Your Own Device(BYOD)化を進めようとしています。このことにはいろいろな課題があります。まず実際のところ、授業の教材がコンピュータ教室に設置された共通のパソコンを前提として作られてしまっています。特に情報の基礎的な授業やプログラミングの授業などにこの傾向が見られます。このため、それらの授業を担当される先生方とよくご相談して、教材を作り直さなくてはいけません。また、キャンパスの情報環境は学生の個人用パソコンとの親和性があまり高くありません。湘南藤沢ITCではファイルシステムを個人用パソコンからマウントできるように作っていませんので、個人の情報環境とキャンパスの情報環境とをシームレスにつなぐ仕組みが必要です。さらに、学生個人の観点では、自分のパソコンが仮にウィルスに感染していると、それをキャンパスのネットワークに接続することで他学生のパソコンやキャンパスネットワーク全体を危機に晒してしまいます。このことをよく理解して、自分のパソコンをきちんと管理できる能力を身につける必要があります。

これらの課題に対してSFCでは、まずキャンパスの情報環境を次世代に進化させる方策を検討しています。ファイルシステムのクラウドストレージ化や、様々なソフトウエアを学生の個人所有パソコンに教育ライセンスで導入できる環境の整備、教室への電源整備などです。授業の教材や、学生の情報リテラシー獲得に繋がるガイダンス、ガイドブックの整備も計画しています。また一部の、教育用ライセンスの存在しない非常に高価なソフトウエアは、大学が購入してキャンパス内のパソコンにインストールしておくことになるでしょう。他方で、BYOD化を進める上で「やってはいけないこと」もよく理解する必要があります。特に、学生の個人パソコン上のハイパーバイザにまるっと乗せると動く仮想的な共通環境を整備するとか、Virtual Network Computing(VNC)に代表される仮想デスクトップを整備するとか、そうしたことは、小学生が使う鉛筆を小学校の先生が毎日削ってあげるのと同じですので、BYOD化に際してやってはいけないことの最たる例です。

このようなことを考慮して、これからのSFCの情報環境はかなり大きく変わっていくものと思われまして、またそれが、今後のSFC卒業生にとって大変重要なことを考えています。

最終更新日: 2018年9月12日

内容はここまでです。