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特集

「理工学ITCにおけるLinux環境」

ITC本部助教 手塚 伸


 理工学ITCでは、2012年度にLinuxワークステーション(以下、Linux WS)の環境に対するいくつかの大きな変更を実施しました。本稿では、理工学部特有のLinux WS環境について記した上、2012年度の主な変更点について述べます。

 近年では、スマートフォンやWindows/Mac OSを搭載したPCなど、様々なITツールを多くの学生が日常的に利用しています。しかし、特にサーバや高度な科学技術計算、シミュレーションなどの用途に対しては、UnixやLinuxをベースとしたものが多く用いられます。そのため、一般的なITツールに加え、これらの基本的な操作を素養として学ぶことは、理工学部の学生とって大変重要となります。

 2012年4月の時点で、理工学部(矢上キャンパス)には約300台のLinux WSが設置されており、学生は授業に限らずいつでも利用できます。Linuxのディストリビューションは、安定性と信頼性の観点からCentOSを用いています。また、ユーザの管理にはNISを用い、ホームディレクトリはファイルサーバ上で一括管理されます。

 Linux WSを使用する授業の内容は、プログラミングや数値計算、シミュレーションなど多種多様です。導入するソフトウェアは、先生方にご提出いただくアンケートを基に選定され、そのご希望は伝統的なソフトウェアから最新のものまで多岐にわたります。これらに対応するため、Linux WSには約100種類のソフトウェアが導入されており、オープンソース・ソフトウェアに加えて、MATLABやMathematica,Gaussianなどプロプライエタリなものも多く含まれています。

 理工学部の学生は、前述のとおりLinuxについて学ぶこと、とりわけ基本となるCUI環境の操作に慣れることが求められます。他方、ブラウザを用いて調べ物をしたり、授業資料のPDFを閲覧したりする必要性があるため、グラフィカルなGUIの環境も必須となります。そこで、理工学ITCのLinux WSでは、CUIでログインし、必要に応じてX Windowを立ち上げる方式としています。また標準のWindow Managerは、 Gnomeなどの近代的な統合デスクトップ環境ではなく、あえて学習のためにシンプルなFVWMを用いています。

 OSとソフトウェアを合計した容量は、約30GBとなります。そのため、アップデートやソフトウェアの追加といったメンテナンスの観点から考えると、その都度ディスクイメージを全筐体へ展開し直すのは得策ではありません。そこで、yumなどのパッケージマネージャで管理されるものを除き、ソフトウェアはすべてファイルサーバ上に配置し、全台で共有するという方針を採っています。また、簡易な修正は独自のスクリプトを用いて、オンラインで行われます。これにより、メンテナンスの作業が容易になることに加え、3年毎に実施される筐体のリプレイス時にも、時間的なコストを削減することができます。なお、例えば100台の筐体へ同時にイメージを展開した場合でも、およそ10分程度で完了します。

 理工学ITCでは、前述のLinux WSの環境に対して、2012年度にいくつかの大きな変更を実施しました。まずOSについて、 CentOS 5.7から6.4へのアップデートを実施しました。CentOS 6.4では、先進的な様々な技術の導入や各ソフトウェアの大幅なバージョンアップが行われており、この影響は4系から5系に移行した際のそれとくらべて大きいものでした。例えば、設定ファイルの場所や記述方法が変更されていたり、ディスプレイやUSBメモリなどデバイスに関する取り扱いが異なっていたりなど、過去のノウハウが通用しない箇所が多々あります。そのため、授業で利用される全ソフトウェアの再インストールと検証作業を2012年1月から2ヶ月間掛けて行いました。さらに3月には1ヶ月間のテスト期間を設け、先生方にも動作をご確認いただきました。

 また、基本的な部分に関しても影響があり、例えばWindow Managerとして用いるFVWMが標準のパッケージに含まれなくなり、ソースからコンパイルして導入する必要がありました。このような全体の動作に影響を与える部分では、安定性を重視してCentOS専用のパッケージを用いることが望ましいのですが、検証の結果が良好であったことに加えて、現在のところ目立った問題は発生していません。また、この機に全Linux WSのディスプレイを、19インチから24インチのワイドタイプへ変更しました。CUIで操作している際はあまり影響を受けませんが、GUIでブラウザとターミナルを併用する場合などに大きな恩恵があると考えられます。

 次に、2011年4月から本格運用が開始された「ITCアカウント」で、Linux WSにログインできるように変更しました。 ITCアカウントとは、各地区のITCが管理するWindows WSにログオンするためのアカウントであり、入学時に学生全員に配布されます。このITCアカウントをLinux WSで利用できるようにしたことで、以前は理工学ITCが発行する専用のアカウントが必要であったのに対し、簡単な手続きのみでWindowsと共通のアカウントを使用できるようになりました。これにより、学生や教職員の負担が大幅に軽減されたと考えます。なお技術的な面では、新旧のアカウントを共存させるために、NISとLDAPを同時に扱えるようにすることや、異なる2つのファイルサーバからマウントされたホームディレクトリを、/home以下にまとめるなどの工夫がなされています。

 3つ目は、文字コードに関する変更です。理工学部のLinux環境は、日本語の文字コードとして伝統的にEUC-JPを用いてきました。他方、近年ではWindowsやMac OS、その他多くのソフトウェアがUTF-8を扱えるようになったことに加え、CentOS 6.4はUTF-8の使用を前提として作られています。そのため、この機に標準をUTF-8とするように変更しました。しかし、授業で利用される一部のソフトウェアについては、UTF-8に未対応であったり、対応が不十分であったりという問題がありました。そこで、これらについてはラッパースクリプトを噛ませるなど、UTF-8化を助ける措置を講じています。

 以上のように、理工学ITCのLinux WSは、新旧の技術を可能な限り共存させ、「伝統的かつ基礎的な環境」と「便利な最新の環境」の両立を目指して構築されています。

最終更新日: 2013年11月12日

内容はここまでです。