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寄稿

普通部におけるICT教育

普通部 教諭:荒川 昭


1.普通部でのコンピュータ教育の取り組み

普通部では1986年以前から大学の計算機センターを利用したFORTRAN言語によるプログラミングの実習が行われている。カードに穿孔機を使って穴をあけて、大型計算機にプログラムを読み取らせて入力し、出力は紙で実行結果がでてくるものである。普通部での実習は、授業は数学の授業を使って行い、授業でアルゴリズムの説明といくつかの簡単なプログラム例を示して、カード穿孔機の使い方、計算機センターの使い方は生徒を引率して大学の計算機センターで教え、最後にオリジナルのプログラムを作る課題であった。

世の中にパソコンが出たばかりの時に、中学校で大学の大型計算機を利用しての実習である。都立高校から、新任教諭として赴任した私は「普通部は大型計算機でコンピュータを教えている。何と最先端の授業を行っているのだろう。」と驚いた記憶がある。

赴任した年から、自分がコンピュータ実習の担当となり、それからずっとコンピュータやICTに関わらせてもらっている。普通部の放課後に生徒が計算機センターを利用させていただいていたので、できる限り大学計算機センターに足を運んだが、時には生徒が出力した紙を丸めてチャンバラしているから担当の先生が注意してくださいというお電話もいただいた。普通部生は大人っぽく見える時もあるが、まだまだ子供だなと感じた。当時の計算機センターの方々に本当にお世話になりました。

普通部百年を機に、目路はるか教室という新しい行事ができたが、コンピュータ関係で講話される先輩のなかで、普通部で行われた大型計算機を使ったプログラミング実習のお話を懐かしそうにする人もおり、日本のコンピュータ業界の中心で活躍されている方が多くいることが分かった。普通部生には、普通の授業だけではなく、スペシャルな体験をさせてあげるのも大切なのだと実感した。Fortran言語のコンピュータ実習は、紙の出力からモニターを使ったオンラインになり、普通部にもコンピュータ教室ができるようになった。普通部のコンピュータ教室でプログラミングを行えるようになり、言語もFORTRANやPASCAL、BASICなど様々な言語を扱った。現在も、VisualBasicでプログラミングを続けている。

BASIC言語との数学との連携も行ってきていて、数学の授業のなかにコンピュータを利用して深く考えさせる授業も行ってきている。例えば二次関数のグラフなどについて、式を変えることでどの様にグラフが移動するかを考察する授業などである。数学の中でコンピュータを利用する活動も現在も行っている。

インターネットと教育については、100校プロジェクトなどでのプロジェクトを担当して、「数学多解問題」では他校とインターネットを通じての交流や「医学部との遠隔教育」「学外インターネット利用情報共有構築実験―学校外からインターネットとできる教科での利用―」などのプロジェクトも実施した。

現在、普通部では1年生全員対象のコンピュータの授業が始まり、現在はロボット制御、Web形式での教材作成、VisualBasicのプログラミング、iPadを使ってiTtunes Uから教材を見つけようなどの授業を行っている。

2年生の数学ではEXCELを利用した統計資料の整理として、統計データから、グラフ作成や統計の値を求めさせて考察を行っている。

3年生では選択授業でのコンピュータの授業なども行われている。選択授業では、「インターネットとコンピュータ」では、インターネットの先進的な学びやC言語などのプログラミングなどを行った。最近では大学との連携による最先端の研究を普通部生に体験させるために、慶應大学理工学部システムデザイン工学科 桂研究室と連携を図り、またオーストラリアのコルベとインターネットを利用しての学習、CBL(Challenge Based Learning)、海外の学校とのコラボレーションを行っている。

2.普通部の新校舎でのWi-Fi環境でのICT教育

新校舎でWi-Fi環境が整い、iPadが使えるようになった。iPadを選んだ理由は次の点からである。 (1)デバイスにカメラがついていて、バッテリーの駆動時間が長くビデオクリップの教材や生徒の活動を生徒同士で簡単に作ることができる。(2)Apple TVで生徒のiPadの画面が共有できる。 (3)iTunes Uが使えるため。iTunes U には、無料の講義、ビデオ、本などのリソースが教育用コンテンツのリソースが使える。(4)iBooks Author が使える。コンテンツやデジタル教科書を作らなければいけないが、iBooks Authorは、iPad用のマルチタッチの教科書が作ることができる。ギャラリー、ビデオ、インタラクティブな図表、3Dオブジェクト、数式などが配置でき、紙の教科書では表現できなかったコンテンツを作ることができる。

3.西オーストラリアでの研修での知見

iPadを活用する前に海外の事例を視察させてもらった。

2013年度は西オーストラリアだけをKolbe Catholic Collegeを中心にHoly Cross College、Presbyterian Ladies’ College、Aubin Grove Primary Schoolの3校は授業見学、Tranby Collegeでは特徴的な学校を作るために工夫した施設の見学をさせてもらった。

2014年度はKolbe Catholic Collegeを中心にPresbyterian Ladies’ College、Scotch Collegeを視察。シンガポールではAnglo-Chinese School(Barker Road)とRiver Valley Colllegeを視察した。

西オーストラリア州では2006年のCatholic Education Officeの研究依頼に呼応する形で「学校教育のデジタル化」を宣言して実践を積み上げ、生徒と教員の全員が情報端末を所有し、ICTがすべての教育活動に浸透する環境をつくりあげている。一人一台iPadを生徒も教師も持ち授業に臨んでいる。コルベカレッジでは、出欠管理、成績管理、学校の配布資料のデジタル化(ペーパーレス化)が行われていて、学校のポータルサイトから利用できるようになっている。デジタル図書が1冊10円くらいで借りられるので、学校の図書館はラーニングセンターに変更され、生徒と教員のプレゼンや意見交換の場に、パソコンやiPadの貸し出しが行われる場所となっている。

コルベでは黒板とチョークの教授型授業を少なくして、21世紀型学習として生徒自身が自分で考え、自分で調べ、友達や先生とディスカッションする学習を増やす。そのシステムとしてサーバーを介して、フリーのソフトを有効に利用し、学校側のサーバーのスペースを提供するのではなく、ネットで提供されているものを積極的に利用して、家庭学習の課題などを送信することを行い、デバイスとしてはiPadを利用している。主なものとしてはShowbie、Podcastなどを語学の学習時に上手く利用している。家庭でもiPadを利用した学習を行い、日本語の授業ではビデオで自分の発音などの練習を録画、音声やビデオファイルとしてサーバーに送る。家庭学習をすることにより、授業がシームレスに家庭学習と連携して、授業で取り組むことができるようになる。また、Google Driveなども上手くコラボレーションのときに利用している。

数学の授業では、ShowMeというソフトを利用して、コンテンツを作っておいてそれを個人の進度別に同じ教室でiPadを見ながら学習を進める形を取っていた。

各生徒がそれぞれ違う問題を、自分のペースで問題に取り組んでおり、解説などはShowMeで作られたビデオを見て、イヤホンで各自聞きながら取り組んでいた。直接、わからない問題を先生に質問する生徒もいるが、みなそれぞれ自分のペースで静かに取り組んでいた。このやり方は、一斉授業で進度をコントロールする日本ではなかなか見受けられないが、最近では反転授業などが一部このようなやり方を取っている。

また、課題解決学習として、プロジェクト型の学習を行っていて、Challenge Based Learningと呼ばれている。例えば「花壇を作る」というアイディアを、予算から何の花を植えるのかなどまで全てを生徒に考えさせて、生徒が企画したプロジェクトを保護者の前でプレゼンし、採択されれば、実際に学校で花壇を作って形に残すことをしている。生徒の考えを目に見える形にしているプロジェクトは少ないので、そのやり方はとても参考になった。生徒と社会との関わりを大事にして、生徒にとってとても貴重な体験となる。2014年からはCBLをその考えから一歩進んで、コルベ、ACS、普通部、品川女子学院とオーストラリア、シンガポール、日本という世界規模でコラボレーションを行い、同じ年代の生徒たちがコラボして取り組む企画になった。普通部では選択授業「コンピュータ」の生徒が参加して、1学期間実施した。その成果についてApple store 銀座店で10月4日にコルベの生徒と品川女子学院の生徒とともに発表した。

オーストラリアは21世紀型学習を目指し、デバイスを使い生徒が中心となった学習スタイルでCBLのようなプロジェクト型の学習もある。デバイスは家庭での負担で購入している。生徒のデバイスの利用については、場所や時間について個人が考え適正な利用がされている。図書館はデジタル図書の利用により、本を貸し出す機能より、発表や討論の場にかわった。デスクトップのコンピュータは分散して配置、生徒はIDとパスワードで自由に使える。サーバーの利用により、家庭学習との連携が考えてあり、有効に利用されている。ポータルサイトから、学校からの情報発信や成績についての保護者へのフィードバックが行われ、家庭学習の際はサーバーの利用としてShowbie、授業のコンテンツをビデオでの学習としてShowMeを利用して効果的な利用が進んできていると感じた。授業配信ではいiTunes Uを利用していた。

4.普通部での新校舎でiPadを利用した授業

(1)中学2年 英語Ⅱの授業 桑原先生 頻度:学期に2~3回 使用目的:生徒のスピーキング力の向上 使用方法:ビデオ機能を使って生徒のスピーキング活動及びテストを録画した 期待された効果と実感:4人グループで1台のiPadを使い、ペアでの会話や個人のスピーチを録画した。テストという形式を取ることで、生徒は緊張感を持ち、また事前に準備してきた生徒も多くいた。最大の利点は教室で全員の前で発表させるよりも一人が英語を話す時間が大幅に増えることであった。同じ発表でもiPadを使った場合10分足らずで全員が行うことが出来た。→1時間内で一人2回同じ発表をするチャンスを与えることができた。(中学生の英語のspeakingでは、繰り返しの練習が必要不可欠であり、それを実現することができた)。また、評価の観点からも、教員は録画したものを後に観て評価をしたので、より公正に的確な評価が出来たと感じている(発表の最中はそのときに与えるべきfeedbackに集中することができた)。デメリット:生徒がiPadを使って写真や動画を勝手に撮るなどイタズラをする。いつも同じタイプの活動であったため、3学期の最後には飽きていた生徒もいたかもしれない。採点に非常に時間がかかる。

(2)中学1年生 数学Ⅱの授業 空間図形 立方体の切断 切り口の例題を取り組んだ後、3点が指定してあるプリントで、それぞれの問題で切り口の形や理由について考察させた。大まかに問題をわけてグループを作り、それぞれが担当している問題を解いた。自分の担当している問題を解いたらロイロノートで解答を送り、その後、班の人とお互いに自分が担当した問題について、班の他の生徒と話し合い相手が分かるまで説明する。最終的には、全部の問題について、わかり易く書き込んである生徒にクラス全員の前で説明をしてもらって、解き方の共有を行った。ロイロノートとApple TVを利用したジグソー法を利用した取り組みである。

写真は問題に取り組んで答えを送った画面

問題を解いている様子

普通部のコンピュータ教室

普通部では、従来のスタイルの教育も大事にしながら、ITCの方々にサポートを受けながら、コンピュータやiPadを使ったさらに新しい教育にチャレンジしていくつもりです。

最終更新日: 2015年9月29日

内容はここまでです。